◆柄の着物
古典文様の柄 古典文様といっても、その種類は、たいへん多く、小紋、友禅をはじめ振り袖、留め袖、訪問着 加工着尺、中形、つむぎなど使用される範囲も広く、固定していません。
◆小桜
桜の花を小さく散らしたもので、平安末期から用いられた記録があります。 主に、江戸小紋に用いられます。 吹雪 雪のふぶくありさまを大小の点模様として散らしたものです。
◆むじな菊
動物のむじなを思わせるような小さい点線で、菊模様の花弁をいっぱいに表現したものです。 七宝 端がとがった長いだ円形を四つ一組として四角形に組み合わせ、多くはそれを連続させた中に 小さい花などを詰めることもあります。
◆青海波
波文を山形の半円形の線で表したものです。 青海波舞曲に用いる、衣装につけたことから、この名称があります。 小紋、染め下生地の地文、振り袖などに用います。 紗綾形 卍の形に変化させて、連続させた線模様です。綸子の地文に用いられ、紗綾形綸子の名が あります。
◆市松
基盤の線模様を打ち違えにつぶした、文様を呼びます。 江戸時代の俳優佐野川市松が用いて、流行したことからでた名称です。
◆熨斗
熨斗(贈り物に添えるもの)を文様化したもので豪華な振り袖などに用いることが多いようです。
◆唐草
唐草は外国から渡ってきた、草花文様という意味です。 別名蔓草文様ともいわれています。 草花の蔓がリズミカルな曲線文様として描かれています。
◆道長取り
文様形式の一つの方法で、道路の曲がりくねった様子に文様を構成しています。
◆御所解
四季の風様や草花、家屋や橋、流水その他器物など古い日本的なものを、一面にした文様です。
◆亀甲
亀の形を六角形の線で表し、上下左右に連続させたものです。
◆うろこ
うろこ形ともいいます。 江戸小紋に用いられています。 これは、能楽で鬼女などの衣装に用いる三角形を連続配列したものです。
◆菱文様
菱形ともいいます。 斜めに方形の平たい形の文様です。 武田氏が家紋として、用いた武田菱(四つ割り菱ともいいます)、松皮菱、花菱など変化に 富んだ文様が多くあります。
◆間世水
うずを巻いた、流水を文様化したものですが、能楽の家元の間世太夫の定式模様である ことから呼ばれています。 小紋、染め下生地のほかに、振り袖、留め袖のような正装に用います。 あじろ 竹やあしやえのきなどの薄い板などを用いて作ったかねきや天井の形を、網代形とも言います。
◆かごめ
竹篭を編んだ形の文様です。 小紋のほか、染め下生地の地文や絵模様にあしらって振り袖や留め袖などに用います。
◆手綱
馬のくつわにつけたたづなのように、斜めにだんだらになった染め文様で、だんだら染めの ことです。
◆源氏香
平安時代の貴族たちが行なった、香合わせの香を包んだものにつけた、印の文様です。 五十四種類ありますが。幾何学的な抽象形の文様です。
◆檜垣
ひのきの薄板で作ったかねきの網み目を文様化したものです。 長方形の線文様を斜めに連続配置したものですが、綸子などの染め下生地として多く 用いられています。
◆光琳模様
尾形光琳作品の中から、取材した文様の総称です。 光琳の梅、光琳の松、光琳の水などがあります。 色彩は濃厚で鮮麗、金泥や銀泥を巧みに用いた奇抜なデザインが特徴です。 吹き寄せ 種々取り集めることを意味します。 着物の文様としては、秋になって松葉やかえで、いちょうなどの木の葉が、吹き寄せられた ありさまを文様化したものですが、渋い裾模様などにふさわしい上品な柄です。 色彩によって若い人にも中年の人にも向きます。
◆小菊づめ
小さい菊の花をいっぱい配置したやさしい文様です。 小紋柄として、多く用いられています。
◆片輪車
波紋を描いて流れて行く水の中に車の片方の輪が半分ほど見えるありさまを描いた文様です。 漆のまき絵に名作があり、それが着物の文様にも転用されることが多く、留め袖のような 礼装や帯地につけて、日本的な情趣にみちた美しさが愛用されています。
◆毘沙門亀甲
六角形線文様の亀甲形を、上に一つ置いて下に二つ並べて接続し、中のY字形の線を消し去り 外側だけの線だけで抽象形の線文としたものです。 名称の由来は不明ですが、現在染め下生地に広く用いられているものの一つです。
◆吉祥文様
吉兆文様ともいいます。 めでたい文様、縁起のよい文様 という意味です。 雲鶴、亀甲、鶴丸、臥蝶、鳳凰、竹、松、梅、雲桐などを図案化したものの総称です。 遠く昔から中国より伝えられた思想に由来して日本的な文様となったものです。
◆雪輪
雪の結晶体の六角形を円文様したものです。 綿だけのもの、また中に花文などを詰めて散らしたりして用います。
◆扇面
室町時代の後期から、書画を描いた扇面をはりつけたびょうぶが広く用いられましたが その意匠を着物の文様に応用したものです。 振り袖、留め袖、帯地などに用いられます。 扇面散らしとして用いられることが多くあります。
◆しまがら
しまには、縦じま、横じま、こうしじまがあり、以前は筋、条布、間島などと呼ばれていました。 織り物技術としてのしまは,素ぼくで初歩的な幼稚なものですので、おそらく人間が織物を 始めると同時に発生したものでしょう。 室町時代から江戸時代にかけて、南蛮船でもんじま(唐機)が舶載されたのが、しまがらの 始原であります。
◆横じま
織り物のしま文様が布地の横糸で、表されたものの総称です。 しまがらは、しま糸と地糸の配列によって変化するもので、特殊なものを除いては、縦じまの 名称を横じまにも共通して用いる場合が多いようです。
◆大名じま
大明じま、大明筋ともいいます。 細かい縦じまの一種で、しま糸一本に対して地糸三本以上を配した単純なしまです。 四つ目大名は、しま糸と地糸を合わせて四本の糸で構成されています。 このほか六つ大名、八つ大名などがあります。
◆千筋
万筋とともの、細かいしまがらという意味です。
◆万筋
縦糸二本を一羽の幾に通し、一羽ごとに色を違えて織った細かいしまです。 地糸としま糸を二本あてに配列して、これをくり返しながら織った縦じまのことをいいます。
千筋、万筋、極万、毛万筋、極毛万筋のようにしまの大小によって、かなり自由に感覚的に 呼ばれています。
◆滝じま
滝じまには、縦がらになったもののほかに、横段になった横滝じまなどもあります。 太いしま糸から、だんだん細いしまに配列したものを呼びます。 また、一方的にしまの配列をくり返したものを片滝じまといい、左右両方に配列したものを 両滝じまといいます。
◆やたらじま
しま糸と地糸の割合が一定せず不同のものを呼びます。 したがって、その種類はきわめて多く、変化に富んだものがあります。
◆棒じま
しま糸と地糸を三羽ずつ六本以上使った太い縦じまのことです。 地糸としま糸が同じ幅で配列された単純なしまで、あたかも棒を並べたような所から つけられました
◆しそこしじま
竹で編んだみそをこすざるをしま文様としたものです。 ざるの目のように、細かく、つんだしまの意味です。
◆子持ちじま
太いしまのそばに細かい一つのしまをともなった、しまがらのことを呼びます。 また、比較的大きな大名じまのそばに、細かいしまをつけたものを子持ち大名といいます。
◆よろけじま
織り物の縦の方向に湾曲して、波状のしま模様を表したものを縦よろけじま、同様に横段に よろけたものを、横よろけじまといいます。
◆立湧じま
相対した日本の曲線が、規則的にふくれたり、縮んだりして縦横に連続するものです。 単に、しまの一種として用いられるばかりでなく、中に描いた文様によって、しまというよりも 一種の古典文様としての種類も多くなります。
◆かつおじま
かつおの背の濃い色が、腹部にかけてだんだん薄くなっていく色調の変化を、しまがらに デザインしたものです。 一種の段になったぼかしじまです。 色も藍染めの紺から薄い藍色の変化で表現され、しまの大きさも大たんな大柄のものが 多くあります。
◆こうしがら
こうしは建具の一種ですが、その形を線文様としたことから、この名称が生まれました。 ごうしじまは、木綿や紬の着物に多く用いられ、なかでも八丈島の黄八丈は有名です。 そのほかに、江戸時代の俳優が自分好みの、粋なこうしがらを作って流行させました。 高麗ごうし 高麗屋ごうしともいいます。 芝居の鈴々森にでる幡随院長兵衛のふん装に、五代目菊五郎がかっぱにつけたことが 人気を呼びました。 縦に長くあらいこうしじまでありますが、縦横ともしま糸は一本おきに太い線と細かい線を 配したものです。
◆菊五郎ごうし
三代目尾上菊五郎の好みで、「いがみの権太」の着付けが評判となり、粋な浴衣がらとして、 現在に至るまで用いられています。 縦横とも四本じまと五本じまの線の外側は、やや肉太の線を用いた、縦長の長方形の中に キの字と呂の字を交互に、描き入れたこうしじまです。
◆翁ごうし
太いこうしの中に、さらに細かいこうしをたくさん表した、こうしじまです。 能狂言や歌舞伎の衣装に用いられる、こうしがらの代表的なものの一つです。
◆弁慶ごうし
基盤じまともいいますが弁慶じまともいいます。 縦と横とが同じ幅で構成されて、二種の違った色糸を縦横の両方に用いたものです。
◆業平ごうし
業平菱ともいいます。 三本の線を一組として、斜めのごうし(菱形のこうしじま)を作り、その中央にもう一本の斜め ごうしをあしらったものです。
◆三筋ごうし
歌舞伎灰俳優の市川団十郎が、楽屋着にも愛用したというこうしがらです。 三味線の糸のように、三本のしまを一組にした線を縦横に交差させたもので、三升ごうしとも いいます。 そのほかのこうし こうしは線の大小、がらの大小、組み合わせの変化によって、多くのこうしがらのデザインが 可能であり、昔から知られている名称のこうしも少なくありません。 大ごうし、小ごうし、こうし厚板、わらべごうし、微塵ごうし、破れごうし、天井ごうし、障子ごうし、 団七ごうし、六弥太ごうし、彦三郎ごうし、市村ごうしなどがあります。
◆かすりがら
かすりはインドに発生し、西にペルシア、イタリア、フランスに伝わり、東はタイ、ビルマ、 南方の島づたいに伝わって沖縄より日本に入り、かすりとして成長しました。 しかし、現在はかすりを衣類に用いてるのは日本だけです。 かすりは、南方ではイカット(くくるという意味)と呼ばれるように、縦糸、または横糸あるいは 縦横の糸の、一部をくくって染め残して織り物とし、染め残った部分に現れるかすれた 文様のある手織り物です。
◆琉球がすり
琉球列島(現在の沖縄列島)は、日本のかすりの発生地で、かすりを生産する島が多くあります。 琉球がすりは、琉球もめんと呼ばれ山藍染めの紺がすりをはじめ、宮古島で生産される 宮古上布は、麻地の濃紺に小さいかすりがらを織り出したものが多いようです。 また、八重山群島のかすりは麻地の白かすりに特徴があり、久米島につむぎがすりは つむぎ織り物で、植物染料による焦茶色と黒が主色です。 久米島の織り物は地風が薄手で柔らかなため袷にして用います。 また、沖縄特産の芭蕉布も、かすりがらが多く、これらを総称して琉球がすりと呼びます。 琉球がすりは、日本のすべてのかすりの基本となるものです。 そのため、色も藍染めを主としたものが多く、文様もいげたがすりや流水、小鳥などを あしらったやさしい抽象文様です。
◆とんぼがすり
とんぼの形を点と線の抽象形で表してかすりがらとしたものです。 もめんがすりを主として、布地一面に配置されたものです。 とんぼが写実的に表現されず、かすり特有の点と線に組み合わせになって、古くさい 感じを与えず、いつまでも新鮮な味を失いません。 雨がすり 雨という天然現象を線文様化したところに、日本的美意識が生かされ、線が連続せず、断続 して表現されているところにかすりの技術が生きています。
◆十字がすり
十の字という単純な形が文様として使われているのも、かすり技術を生かしたぜデザインと いえます。 十字がすりは、縦、横がすりでのみ表すことができるものですし、その縦糸と横糸のかすり糸 の重なりの不完全なズレ(かすり足という)が、あるため十字形という単純平凡なものが 美しくなるのです。
◆蚊がすり
小さくて蚊のようなかすり文様をいいます。 十字がすりと同様に縦横がすりであるところに、かすり文様が生かされています。 もめん、つむぎのほかに宮古上布など、男物に多く用いられています。
◆ねこ足がすり
かすりがらが、めこの足跡に似ているばかりではなく、配置にも不規則な点文様の美を デザインした、かすりがらのひとつです。
◆矢がすり
矢羽根がすり、矢笞がすりともいいます。 かすりにくくった縦糸をずらすだけで、比較的容易に織れること、羽根の形が抽象化されて 形態に変化がつけられるなどの点が、作るほうにも、着るほうにもいつまでも新鮮味を感じ させる原因でしょう。 もめんがすり、つむぎがすり、御召がすりなどに広く用いられています。
◆亀甲がすり
かめの甲を六角形の線文としたものでかすりがらだけでなく、染めや織りの両方に用いられる 古典文様の一つです。 かすりとしては、中小がらが多く、もめんがすり、つむぎがすりなどに広く用いられています。
◆こうしがすり
建具のこうし形をかすり文様に織ったもので十字がすりが、やや複雑化されています。 これも断続しながら配置されることによって、かすりがらとして生きています。
◆銭がすり
穴のあうた古銭の形をかすりに織ったもので、がらの分類としては円模様です。 一見して銭を連想するような写実性は全然なく、抽象化された円模様です。 久留米がすりや伊予がすりなどに、多く見られます。
◆いげたがすり
こうしがすりと似たかすりです。 こうしがすりが縦に長い長方形であるのに対し、いげたがすりは、正方形に織ったものです。
◆絵がすり
おもに松竹梅やつる、かめなどのようなおめでたいがらを、大きく織り出したものが多く 用途も夜具地などに使われています。